日本語教育100の質問(6)移住してきた外国人の主婦が通う学校も日本語学校ですか
今回は「学校」についての質問です。「主婦」だけじゃなくて「主夫」のこともあるかもしれません。
いろいろな事情で来日する方がいらっしゃいます。日本人と結婚した方。配偶者が日本で働くことになった方。帰国してきた、という方。なかなか認められませんが、難民認定を受けた方も。
誰かと会うために外に出る機会はとても大切だと思います。外とのつながり。社会関係資本。日本語を勉強するのは、そういう機会作りにもなります。
留学生はきっちり勉強しなければ日本にいることができませんが、上記の皆さんは勉強しなくても在留に問題はないでしょう。
だからこそ、「勉強したいっ!」という人がいつでも勉強できる状況がイイですね。「別に…」という人も、せっかくですから。
勉強したいときに選べる道はいろいろありそうです。特に、都会では。有料無料、時間もいろいろ。
・日本語学校の正規授業に参加…本気で、毎日勉強。
・日本語学校の「そういう人たち向け」のクラス…週に数回とかのクラスを開講している学校があったりします。
・公的団体…都道府県や市町村、国際交流協会などが日本語を教える教室を開催している場合が。
・地域日本語教室…近所の公民館などで日本語教室が開催されていることも。市町村とか教育委員会とかの委託を受けていたりして、公的な色合いも強いですね。
文化庁によれば、公的団体や地域日本語教室の活動はボランティアの先生たちに支えられている部分が大きいです。
A=常勤の先生(日本語)
B=常勤の先生(それ以外)
C=非常勤の先生
D=ボランティアの先生 で、
(A+B+C):D を上の資料で見てみましょう。
(Bの先生たちってどんなことを教えてくれるんでしょうね?)
ついでに、ST比(先生ひとりで何人の学生を担当するの?)も見てみましょう。
地方公共団体 315:4,563 学習者18,901人。ST比3.87人。
教育委員会 914:1,963 学習者11,502人。ST比3.99人。
国際交流協会 763:12,145 学習者36,661人。ST比2.84人。
法務省告示機関(日本語学校ですね) 9,562:177 学習者98,874人。ST比10.15人。
おお、日本語学校は忙しいですね。
僕は、大きな問題は都会よりも田舎(失礼)にある気がしています。外国人があまり住んでいないところに海外から引っ越してきた、日本語が話せない皆さん。
あと、いろいろな事情の「勉強したいけどできない」を解決していくことも大切ですね。
勉強したいときに勉強できる機会をどうやってつくっていくのかが大きな課題です。日本語教育の推進に関する法律案などでも機会の拡充を求めていますが、はてさてどうなりますやら。
日本語教育100の質問(5)小学校等で移住してきた外国人に日本語を教えるのも日本語教師ですか
質問は「日本の小中学校などにいる、外国籍で、日本語を勉強する必要がある子ども達に日本語を教えるのも日本語教師ですか」という意味ですね。…我ながら回りくどい言い方です。
外国人だけじゃなくて日本人の子どもでも、日本語の勉強の必要がある子がたくさんいますからね。なので、対象は国籍も何も関係なく「国内の小中学校で日本語の勉強が必要な子ども」としたほうが良さそうです。
文部科学省がまとめています。
「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成 28 年度)」の結果について
現状、一番新しいのが↑。これによると、外国籍34,335人、日本国籍9,612人、合計43,947人の子どもに対して指導が必要だとなっています。で、指導が受けられているのは外国籍26,410人、日本国籍7,137人、計33,547人。
あれ。つまり10,400人の子どもが「日本語指導は必要だけど、受けられていない」状況にあるわけです。
さて、質問に純粋に答えます。
小中学校の子どもたちに教えるのは…主として日本語教師じゃありません。じゃないことになっています。ありゃ、残念。
2014(H26)年に学校教育法施行規則が一部改正され、上記のような子どもへの日本語指導が「特別の教育課程」とされました。日本語指導を「授業」とみてもいいですよ、という意味ですね。上記リンク内、改正の留意事項としてこんなことが書いてあります。
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5 特別の教育課程の指導者について
(1)日本語指導担当教員は、教員免許を有する教員(常勤・非常勤講師を含む)とし、日本語指導を受ける児童生徒の指導の中心となって、児童生徒の実態の把握、指導計画の作成、日本語指導及び学習評価を行うものとすること。
(2)指導を補助する者は、必要に応じて配置し、日本語指導担当教員が作成した指導計画に基づき、当該教員が行う日本語指導や教科指導等の補助や児童生徒の母語による支援を行うものとすること。
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ざっくり言うと、
(1)担当は小中学校の先生ね。少なくとも教員免許持っていてね。
(2)それを手伝う人は、小中学校の先生の計画通りに教えてね。
という意味になりそうです。
「授業」だから、教員免許持った先生がしなきゃダメ。日本語教育の有資格者が持つ資格は、国が認める資格じゃないから「小中学校で授業を担当しちゃダメ。補助はオーケー」ってことでしょう。両方持っていればなお良いのかな。
…モヤモヤする。とってもモヤモヤします。分かる部分もあるんですけど。
「日本語?それを専門に学んでなくても教えられるでしょ?」って言われているような気が。
ぬぬぬ。被害妄想でしょうか。
日本語教育100の質問(4)オンラインで日本語を教えるのも日本語教師ですか
そういう時代になりましたねぇ。
ちょっと興味があります。オンライン授業。
基本的にマンツーマンなんでしょうかね。自宅を利用する場合、背景をきれいにしておきたいですね。家族にも「今レッスン中!」と言っておかなければ。「晩ご飯やでぇ!」と声が掛かったり、風呂上がりの家族が画角を過ったりするかもしれません。
学校じゃないんだから資格なんていらないんじゃない?と思いそうですが、それではお客さんが集まらないし商売とはならないですね。
たくさんのオンライン日本語教師の求人をまとめているサイトがいくつかあります。ぱらぱらっと見てみると、応募条件は日本語教育機関での勤務時に求められる資格((1)に書きましたね)を持った方、となっているオンライン教室が多いようです。
教える対象がいれば資格があっても無くても「先生」ですね。資格があろうが無かろうが先生なんだからちゃんと教えなきゃいけないし、勉強している人は「ちゃんと教えてよ」と思うでしょう。
オンラインで教える皆さんももちろん日本語教師でしょう。有償無償、資格有無関係なく。で、それを商売にしている学校なり会社なりに採用されたいなら、有資格者であるほうがいいみたいです。
学生さんを募る時とか「どの先生に担当してもらいたい?」という時とか、もしかすると校舎のある学校よりもシビアな目が向けられるかもしれませんね。
世界中から学習者が募れますが、世界中のオンラインの先生がライバル、という意味にもなります。
これは…なかなか厳しそうな世界です。
日本語教育100の質問(3)ボランティアも日本語教師ですか
面白い質問ですね。
僕は毎週土曜日に地域の日本語教室でボランティア活動として日本語を教えてています。そこではたくさんのボランティア講師の方々が活動に取り組み、さまざまな国や地域から来た皆さんが日本語を学んでいます。無償です。手弁当です。でも、とても楽しい場所です。
ボランティア講師の皆さんに「あなたは日本語教師ですか?」と聞くと、おそらく「いえいえ、私はボランティアで教えているだけです」と言うでしょうね。「それで給料をもらっているわけじゃないから、職業として名乗るのはちょっと…」という気持ちでしょう。
ところが。日本という国はそうは思っていないようで。ボランティアも立派な日本語教師!(だからしっかり教えてね)(だから無償でも頑張ってね)というつもりでいるんでは、と思われます。
文化庁が日本語教育の実態を調査していて、その概要をウェブで公開しています。
国内の日本語教師数は(上記調査によれば)39,588人、となっています。で、ここにはボランティア22,640人が含まれるそうです。割合は57.2%。最大勢力です。
国内の日本語教育はボランティアが支えていると言えそうです。「私はボランティア日本語教師です」と言い切って差し支えないと、僕は思います。
いま議論されている「日本語教育の推進に関する法律案」でも、「文化芸術基本法」なんかでも、「国が日本語教育に責任持たなきゃね」と言っています。言っていますね。うん言っています。
責任を持っている割に地域とか自治体とかに丸投げにし過ぎじゃない?と、正直思います。
手弁当で日本語を教えているボランティアの皆さんの善意によりかかり過ぎじゃない?とも思います。
ボランティアでの活動を国の施策として位置付けたいなら、そこへの支援の充実やら「私はボランティアで日本語教師をしています」と立派に名乗れるような工夫(国が認めた「ボランティア日本語教師カード」とか?よくわかりませんが)が必要なんじゃないの?と思います。
いや、お金が全てじゃないですよ。でも「やりがい搾取になってない?」「それを前提に社会を作っちゃいかんのじゃない?」と思うわけですよ。
質問からずれましたね。
僕は、ボランティアも立派な日本語教師だと思います。はい。
日本語教育100の質問(2)日本語教師は国家資格ですか
おおお、ぐさっと来る質問ですね。
単純に答えれば「いいえ、違います」となりますね。残念無念。しかし、資格がないわけではない。日本語教師の資格という概念、非常に曖昧です。
このブログの(1)で書きましたが、法務省(お上ですね。国家ですね)が「日本語学校の先生になるにはこれかこれかを満たしてね」と言っている条件があります。
その中でも日本語教育能力検定試験は試験一発で「あなた日本語のセンセイになってもいいよ」という試験ですね。でも国家試験じゃない。国家資格じゃない。実施しているのは公益財団法人日本国際教育支援協会です。
このあたり、やっぱり制度の「建て付け」がヘンなんじゃないかと思います。
2018年12月、「日本語教育の推進に関する法律案」が日本語教育推進議員連盟により認められ、国会へと提出されることとなりました。今期?来期?とにかく、早いほうが。
この中の21条には「日本語のセンセイの資格に関して仕組み整備しにゃいかんね」と書かれています。
今後何らかの動きが生まれ、日本語の先生の資格が立派なものになったり待遇が改善したりしてほしいものです。
同じ21条には「処遇の改善が図られるよう…」って書いてあるし!
何とかかんとか、立派な自慢できるお仕事になってもらいたい。少なくとも「日本語教師になったからこれでずっと飯が食えるし家族が養える」と安心できる仕事になってもらいたいっ!
国家資格化がその近道なのかどうなのかはわかりませんが、たぶん今より明るい未来が…待っているに違いないと信じています。はい。信じる日本語教師は救われる…日も近いです。きっと。
日本語教育100の質問(1)日本語教師にはどうやってなるのですか?
最初からなかなか難しい質問です。
これが論文か何かなら「日本語教師とは何ぞや」という定義から始めなければなりません。でも、知らない。もう少し緩く「日本語学校で教える人」をイメージして話しましょう。
(無論「日本語学校とは何ぞや」という定義も必要でしょう。でも、放置します。いわゆる日本語学校。法務省告示機関。)
フツーの日本語学校が求人サイトなんかに書いてあるのは大抵こんな条件ですね。
1)日本語教育能力検定試験に合格した人
2)420時間以上の日本語教師養成課程を修了した人
3)大学で日本語教育について勉強した人
4)その他(その他とは何ぞや)
上記のどれかを証明できれば、とりあえず日本語学校の求人に応募できますよ、ということになります。
上のような条件、根拠は法務省が決めています。日本語学校を作るためには法務省に「作りたいっす」と申し込むんですね。何だかコワい。
日本語学校作るにも、条件があります。
おおもとの条件は↓「日本語教育機関の告示基準」。
http://www.moj.go.jp/content/001265460.pdf
設置者やら校長やら建物やら何やらかんやら細かい基準があります。
で、先生の資格は以下の通り。「告示基準」第一条十三項。口語訳。
イ 大学とか大学院とかで日本語教育について勉強しましたよ(かつて「主専攻」と言われていた、45単位以上の勉強をした人たちを指すのでしょう)
ロ 大学とか大学院とかで日本語教育学はやってないけど関係あることを26単位以上勉強しましたよ(かつての「副専攻」ですな多分)
ハ 日本語教育能力検定試験に合格しましたよ
ニ 大卒で、420単位時間以上の研修(養成講座ですね)を終えましたよ ※私が終えたその研修は、法務省に認められていますよ。
ホ その他(とは何ぞや)
ざっくり言います。
・日本語教育に関して大学やら院やらで勉強した人は、条件を満たします。26単位以上。
・日本語教育関係じゃない大卒以上の人は、養成講座行くか検定とるか。
・大卒じゃない人は、検定取って。
で、ご自身にあてはまる求人をIndeedやら日本村サンやら何やらで検索して、応募して、面接とかして…という流れになりましょうか。
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経験者が優遇されるのはどんな業界も同じでしょうね。日本語のセンセイもご多分に漏れずそうです。面接時に「『みんなの日本語14課の導入を15分で模擬授業してみて」なんて言われることもあるでしょうから、何らかの形で経験を積んでおいた方がよさそうです。
例えば地域日本語教室などで教える場合、上記のような条件を問わないことも多くあります(ほとんど問わないんじゃないかなぁ。知らんけど)。思い立ったら吉日、これから日本語のセンセイを目指してみようと思ったら、近所の公民館なんかに行ってみるのもいいかもしれませんよ。