さざれごと

もしかしたら誰かが見るかも、という微かな緊張感をもって綴る日常の滓や澱

日本語教育100の質問(8)日本語教育能力検定試験に合格すると日本語教師になれますか

(1)にも書きましたね。法務省 日本語教育機関の告示基準の中の教員資格のひとつに「日本語教育能力検定試験の合格者」と挙げられています。日本語学校で先生をしたい場合、合格していれば履歴書を送ることができそうです。

大学などでの募集の場合、研究業績が求められるので検定だけでは難しい(し、必要ない?)ですね。

ボランティアで教える場合は資格についてあれこれ求められることは少ないでしょう。

検定試験の話でした。去年は応募者が8,536人、受験者が6,841人、合格者が1,937人。1,695人、申し込んだけど受験していません。申し込みが8月初旬まで、試験が10月末ですから「2ヶ月勉強したけど…ムリかな…」という人がいたのかな。いや、ただ単に都合が悪かっただけかも。合格した皆さんは先生になったのでしょうか。

(6)でも触れた、文化庁の「国内の日本語教育の概要」によれば、2017年現在のいろんな機関を合算した常勤・非常勤の先生が16,948人。ボランティアの先生が22,640人。

常勤の日本語の先生は4,042人。10.21%。絶滅危惧種です。法務省告示機関(日本語学校です)に限れば2,540人。おお、寂しい。

日本語学校法務省によれば708校ですが「概要」では466校。242校の差は・告示されたけどまだ/もう活動していない・文化庁の調査に答えていない、みたいな状況かと推察。

2,540/466=5.45。ひとつの学校に5人強の専任の先生。先生の数について、告示基準では

条件1)1機関に2人以上、かつ学生定員40名につき1人は専任の先生じゃなきゃダメ。

条件2)学生定員20名につき1人は先生が(常勤非常勤問わず)いなきゃダメ。

日本語学校で勉強している学生は98,874人。

仮に学生定員98,874人の日本語学校(!!)が条件1)2)を満たすためには、最低でも2,472人の専任の教員と2,472人の非常勤の教員が必要です。お、足りている?

…非常勤の先生はそう都合よく働けないでしょうから、人数がきっちりだと授業はムリだろうと思います(主任教員の立場として、ムリです)。

 

検定を受けるからには、日本語を教えることに何か興味がある人(と、資格マニア?)でしょうね。どこかで活躍されていることを祈るばかりです。

あ、中には毎年受験している現役の先生や大学の先生もいます。研鑽を忘れないその心、頭が下がる思いがします。

 

長々と書きましたが、日本語の先生の資格とか試験とかも、新しくなるかもしれません。文化審議会国語分科会日本語教育小委員会による日本語教育能力の判定に関する意見の整理と主な論点(案)

 

…2019年度中に、何か決まるのでは?

日本語教育100の質問(7)日本語教師に年齢制限はありますか

すべてのお仕事は(タテマエ上)、年齢制限をしてはいけないことになっています。厚生労働省が言っていますね。「長期勤続によるキャリア形成の必要が…」みたいな言い訳をしている場合が多いみたいですけどね。

年齢制限は妥当とされていたとかいう公務員も最近、年齢制限のない求人があるとかないとか。

 

というわけで、日本語教師も年齢制限は無いことに。

 

あ、若すぎるのはダメですね。労働基準法56条に引っかかります。(…いや、でも軽い仕事でお上が許せば、っていう方に入っているか?労基法、タイヘンな仕事(別表第一の1~5)は中学生以下ダメよ、と言ってるけどそれ以外(教育は別表第一の12)はお勉強と通算40時間以内まで働いてもいいよ許可出れば、となっていますし、小6の標準だと週20時間ぐらいだから20コマの日本語の授業を担t…)

 

…非現実的なことをいうのはやめましょう。

 

それもこれも日本語教師の有資格者として告示基準に「日本語教育能力検定試験に合格した者」という条件があるのが妄想のタネでして。大学や専門学校だと教員の条件(学歴要件があって、それを満たすには年齢はどうしても)がありますけど、各種学校なんかだと結構自由なの?とか。検定、受験資格に制限ないし。中学生が教壇に立つ日本語学校、面白そうです。

 

…さて、まじめに。

仕事として教える際にも、年齢制限はなさそうです。ボランティアで教える場合にもない…のでは?僕が土曜日にお手伝いしている地域日本語教室ではボランティアさんの年齢制限は無いです。

 

実際にはなかなか体力勝負だったり経験が役立ったりする部分はあります。でもまあ、60歳から始めて80歳までやればキャリアは20年になるわけですし。文化庁日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)の中で2,400単位時間ぐらいから「中堅日本語教師と呼びましょう」と言っていますし。3~5年。

 

初級のクラス授業などはけっこう体力勝負ですが、少なくとも年齢に縛られるお仕事ではないのでは?と思います。

日本語教育100の質問(6)移住してきた外国人の主婦が通う学校も日本語学校ですか

今回は「学校」についての質問です。「主婦」だけじゃなくて「主夫」のこともあるかもしれません。

いろいろな事情で来日する方がいらっしゃいます。日本人と結婚した方。配偶者が日本で働くことになった方。帰国してきた、という方。なかなか認められませんが、難民認定を受けた方も。

誰かと会うために外に出る機会はとても大切だと思います。外とのつながり。社会関係資本。日本語を勉強するのは、そういう機会作りにもなります。

 

留学生はきっちり勉強しなければ日本にいることができませんが、上記の皆さんは勉強しなくても在留に問題はないでしょう。

だからこそ、「勉強したいっ!」という人がいつでも勉強できる状況がイイですね。「別に…」という人も、せっかくですから。

 

勉強したいときに選べる道はいろいろありそうです。特に、都会では。有料無料、時間もいろいろ。

日本語学校の正規授業に参加…本気で、毎日勉強。

日本語学校の「そういう人たち向け」のクラス…週に数回とかのクラスを開講している学校があったりします。

・公的団体…都道府県や市町村、国際交流協会などが日本語を教える教室を開催している場合が。

・地域日本語教室…近所の公民館などで日本語教室が開催されていることも。市町村とか教育委員会とかの委託を受けていたりして、公的な色合いも強いですね。

 

文化庁によれば、公的団体や地域日本語教室の活動はボランティアの先生たちに支えられている部分が大きいです。

A=常勤の先生(日本語)

B=常勤の先生(それ以外)

C=非常勤の先生 

D=ボランティアの先生 で、

(A+B+C):D を上の資料で見てみましょう。

(Bの先生たちってどんなことを教えてくれるんでしょうね?)

ついでに、ST比(先生ひとりで何人の学生を担当するの?)も見てみましょう。

地方公共団体 315:4,563 学習者18,901人。ST比3.87人。

教育委員会 914:1,963 学習者11,502人。ST比3.99人。

国際交流協会 763:12,145 学習者36,661人。ST比2.84人。

法務省告示機関(日本語学校ですね) 9,562:177 学習者98,874人。ST比10.15人。

おお、日本語学校は忙しいですね。

 

僕は、大きな問題は都会よりも田舎(失礼)にある気がしています。外国人があまり住んでいないところに海外から引っ越してきた、日本語が話せない皆さん。

あと、いろいろな事情の「勉強したいけどできない」を解決していくことも大切ですね。

勉強したいときに勉強できる機会をどうやってつくっていくのかが大きな課題です。日本語教育の推進に関する法律案などでも機会の拡充を求めていますが、はてさてどうなりますやら。

日本語教育100の質問(5)小学校等で移住してきた外国人に日本語を教えるのも日本語教師ですか

質問は「日本の小中学校などにいる、外国籍で、日本語を勉強する必要がある子ども達に日本語を教えるのも日本語教師ですか」という意味ですね。…我ながら回りくどい言い方です。

 

外国人だけじゃなくて日本人の子どもでも、日本語の勉強の必要がある子がたくさんいますからね。なので、対象は国籍も何も関係なく「国内の小中学校で日本語の勉強が必要な子ども」としたほうが良さそうです。

 

文部科学省がまとめています。

「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成 28 年度)」の結果について

現状、一番新しいのが↑。これによると、外国籍34,335人、日本国籍9,612人、合計43,947人の子どもに対して指導が必要だとなっています。で、指導が受けられているのは外国籍26,410人、日本国籍7,137人、計33,547人。

あれ。つまり10,400人の子どもが「日本語指導は必要だけど、受けられていない」状況にあるわけです。

 

さて、質問に純粋に答えます。

 

小中学校の子どもたちに教えるのは…主として日本語教師じゃありません。じゃないことになっています。ありゃ、残念。

 

2014(H26)年に学校教育法施行規則が一部改正され、上記のような子どもへの日本語指導が「特別の教育課程」とされました。日本語指導を「授業」とみてもいいですよ、という意味ですね。上記リンク内、改正の留意事項としてこんなことが書いてあります。

---
5 特別の教育課程の指導者について
(1)日本語指導担当教員は、教員免許を有する教員(常勤・非常勤講師を含む)とし、日本語指導を受ける児童生徒の指導の中心となって、児童生徒の実態の把握、指導計画の作成、日本語指導及び学習評価を行うものとすること。
(2)指導を補助する者は、必要に応じて配置し、日本語指導担当教員が作成した指導計画に基づき、当該教員が行う日本語指導や教科指導等の補助や児童生徒の母語による支援を行うものとすること。

---

ざっくり言うと、

(1)担当は小中学校の先生ね。少なくとも教員免許持っていてね。

(2)それを手伝う人は、小中学校の先生の計画通りに教えてね。

という意味になりそうです。

 

「授業」だから、教員免許持った先生がしなきゃダメ。日本語教育の有資格者が持つ資格は、国が認める資格じゃないから「小中学校で授業を担当しちゃダメ。補助はオーケー」ってことでしょう。両方持っていればなお良いのかな。

 

…モヤモヤする。とってもモヤモヤします。分かる部分もあるんですけど。

「日本語?それを専門に学んでなくても教えられるでしょ?」って言われているような気が。

 

ぬぬぬ。被害妄想でしょうか。

日本語教育100の質問(4)オンラインで日本語を教えるのも日本語教師ですか

そういう時代になりましたねぇ。

 

ちょっと興味があります。オンライン授業。

基本的にマンツーマンなんでしょうかね。自宅を利用する場合、背景をきれいにしておきたいですね。家族にも「今レッスン中!」と言っておかなければ。「晩ご飯やでぇ!」と声が掛かったり、風呂上がりの家族が画角を過ったりするかもしれません。

 

学校じゃないんだから資格なんていらないんじゃない?と思いそうですが、それではお客さんが集まらないし商売とはならないですね。

 

たくさんのオンライン日本語教師の求人をまとめているサイトがいくつかあります。ぱらぱらっと見てみると、応募条件は日本語教育機関での勤務時に求められる資格((1)に書きましたね)を持った方、となっているオンライン教室が多いようです。

 

教える対象がいれば資格があっても無くても「先生」ですね。資格があろうが無かろうが先生なんだからちゃんと教えなきゃいけないし、勉強している人は「ちゃんと教えてよ」と思うでしょう。

 

オンラインで教える皆さんももちろん日本語教師でしょう。有償無償、資格有無関係なく。で、それを商売にしている学校なり会社なりに採用されたいなら、有資格者であるほうがいいみたいです。

学生さんを募る時とか「どの先生に担当してもらいたい?」という時とか、もしかすると校舎のある学校よりもシビアな目が向けられるかもしれませんね。

 

世界中から学習者が募れますが、世界中のオンラインの先生がライバル、という意味にもなります。

 

これは…なかなか厳しそうな世界です。

日本語教育100の質問(3)ボランティアも日本語教師ですか

面白い質問ですね。

 

僕は毎週土曜日に地域の日本語教室でボランティア活動として日本語を教えてています。そこではたくさんのボランティア講師の方々が活動に取り組み、さまざまな国や地域から来た皆さんが日本語を学んでいます。無償です。手弁当です。でも、とても楽しい場所です。

 

ボランティア講師の皆さんに「あなたは日本語教師ですか?」と聞くと、おそらく「いえいえ、私はボランティアで教えているだけです」と言うでしょうね。「それで給料をもらっているわけじゃないから、職業として名乗るのはちょっと…」という気持ちでしょう。

 

ところが。日本という国はそうは思っていないようで。ボランティアも立派な日本語教師!(だからしっかり教えてね)(だから無償でも頑張ってね)というつもりでいるんでは、と思われます。

 

文化庁日本語教育の実態を調査していて、その概要をウェブで公開しています。

 

国内の日本語教師数は(上記調査によれば)39,588人、となっています。で、ここにはボランティア22,640人が含まれるそうです。割合は57.2%。最大勢力です。

 

国内の日本語教育はボランティアが支えていると言えそうです。「私はボランティア日本語教師です」と言い切って差し支えないと、僕は思います。

 

いま議論されている「日本語教育の推進に関する法律案」でも、「文化芸術基本法」なんかでも、「国が日本語教育に責任持たなきゃね」と言っています。言っていますね。うん言っています。

 

責任を持っている割に地域とか自治体とかに丸投げにし過ぎじゃない?と、正直思います。

手弁当で日本語を教えているボランティアの皆さんの善意によりかかり過ぎじゃない?とも思います。

ボランティアでの活動を国の施策として位置付けたいなら、そこへの支援の充実やら「私はボランティアで日本語教師をしています」と立派に名乗れるような工夫(国が認めた「ボランティア日本語教師カード」とか?よくわかりませんが)が必要なんじゃないの?と思います。

いや、お金が全てじゃないですよ。でも「やりがい搾取になってない?」「それを前提に社会を作っちゃいかんのじゃない?」と思うわけですよ。

 

質問からずれましたね。

僕は、ボランティアも立派な日本語教師だと思います。はい。

日本語教育100の質問(2)日本語教師は国家資格ですか

 おおお、ぐさっと来る質問ですね。

 

単純に答えれば「いいえ、違います」となりますね。残念無念。しかし、資格がないわけではない。日本語教師の資格という概念、非常に曖昧です。

このブログの(1)で書きましたが、法務省(お上ですね。国家ですね)が「日本語学校の先生になるにはこれかこれかを満たしてね」と言っている条件があります。

その中でも日本語教育能力検定試験は試験一発で「あなた日本語のセンセイになってもいいよ」という試験ですね。でも国家試験じゃない。国家資格じゃない。実施しているのは公益財団法人日本国際教育支援協会です。

 

このあたり、やっぱり制度の「建て付け」がヘンなんじゃないかと思います。

 

2018年12月、「日本語教育の推進に関する法律案」が日本語教育推進議員連盟により認められ、国会へと提出されることとなりました。今期?来期?とにかく、早いほうが。

この中の21条には「日本語のセンセイの資格に関して仕組み整備しにゃいかんね」と書かれています。

今後何らかの動きが生まれ、日本語の先生の資格が立派なものになったり待遇が改善したりしてほしいものです。

同じ21条には「処遇の改善が図られるよう…」って書いてあるし!

何とかかんとか、立派な自慢できるお仕事になってもらいたい。少なくとも「日本語教師になったからこれでずっと飯が食えるし家族が養える」と安心できる仕事になってもらいたいっ!

 

国家資格化がその近道なのかどうなのかはわかりませんが、たぶん今より明るい未来が…待っているに違いないと信じています。はい。信じる日本語教師は救われる…日も近いです。きっと。